吉祥読本

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ダブリナーズ --ジェイムズ・ジョイス

新潮社Webサイトより一部引用
アイルランドの首都ダブリン、この地に生れた世界的作家ジョイスが、「半身不随もしくは中風」と呼んだ20世紀初頭の都市。そこに住まうダブリナーたちを通して描いた15編。最後の大作『フィネガンズ・ウェイク』の訳者が、そこからこの各編を逆照射して日本語にした画期的新訳。『ダブリン市民』改題。


ユリシーズ」、「フィネガンズ・ウェイク」・・・ジョイスのこれらの作品を読もうと手を伸ばし、パラパラめくり、そして戻すことを何度繰り返してきたことでしょう。
ジョイスを意識したのは20年以上前に読んだ高橋源一郎さんの作品を読んでからでした。
「さようなら、ギャングたち」で衝撃を受け、どれだけの影響を受けたことでしょう。
高橋源一郎に影響を与えた作家の一人、ジョイス大先生に興味を持つのは必然だったのですが、数年前、ユリシーズが遂に出た!と、買う気満々で書店に行ってから何度棚に戻す作業を繰り返した事でしょう。

 

先日平積みされている本書を見て「ダブリナーズ・・・うん?」と立ち止まる。
ダブリン市民じゃないですか!(題名だけは知っている)
ダブリナーズのほうがいい題名です。そのままですが(笑)
で、勝手に手が動く感じで入手。(万引きじゃないです)
早速読みましたが、やはり一筋縄ではいかないと実感。
ジョイスがかつて住んでいたダブリンの普通の人々の生活の一部を切り取った描写が淡々と綴られているだけの15編の短編です。普通で読みやすい。
ただ、あまりに起承転結めいたものが朧げで、退屈でもある。
馴染みのない言葉、表現がポツポツと出てくる。訳が変なんじゃない?という箇所もチラリホラリ。
ところがである。
訳者の柳瀬尚紀さんの解説を読んで色んなことが納得できた。訳が変なのではないのだ。意識的な訳なのだ。とてもよくできた訳なのだ。
訳者の並々ならぬ熱意を感じる(解説を読んで、ですが)。
何人かの訳者の手でこの作品は出版済みですが、今までの訳では表現しきれなかったものや間違いを指摘し、そこをそう訳してしまったらここでは笑えないよ、こう訳さないとね、みたいなことが書かれていた。
ナルホド。
でも、その訳を読んでいたにもかかわらず一回も笑うことが出来なかった自分にショック!
そこが笑いどころかいっ!全然わかってないじゃん、オレ・・・
(ニヤリとしたことが2回ありましたけど)
その当時のダブリンに漂っていた街の雰囲気やそこで暮らしていた人々の雰囲気は全篇通して読むことで感じることは出来た気がしますが、それだけしか成果を上げられなかったようです。
ジョイスの描く心理描写は会話の中に巧みに表現されていたような気がするが、ちゃんと理解できているか?と問われれば自信がない。
読後にチラリと調べたら本作の中にある「死せる人々」という作品の、あることに気付き、思っていた以上に深い仕掛けがあるかも、と思いました。。。。
単に読みきれてないだけか、深読みしすぎかはわかりませんが。
ジョイスで一番心配してきたことは、読むことはできても果たして理解することができるだろうか、という点だったが、心配は当たったようです(苦笑)
ジョイスの基本となるダブリナーズを読むことは、ジョイス作品を今後読む上で、いや読み解くうえで不可欠に違いないと思いつつ、基本作品だけに、反復して読み取る必要もあるんだと思います。


遂に手を出したジョイスは、今後時間をかけてタップリと味わいたいと思います。