吉祥読本

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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない --桜庭一樹

「BOOK」データベースより引用
その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。


表紙が変わるとオッサンでも手に取りやすくなります。感謝。

この作品は今まで読んできた作品の流れっぽいし、読まなくてもいいかな?と思っていました。
しかし、である。
確かにキャラ設定はライトノベルだが、作者が書きたかったことは決してライトではなくきっと海野藻屑や山田なぎさの同年代が読むととても激しい共感を得るのではないかと思う。
自分が若い時にこの作品を読んだらきっと興奮したに違いない。ライトノベルと思うなかれ。

荒削りな面はあるが、そんな諸々の事をどうでもいいこととして受け止められる。作者の持つ?痛みを見せ付けられているかのようなパワーを感じる。

作者本人の単行本版あとがきを読んでいる時、山田なぎさが大人になって書いた作品なのではないか?と思えてしまうほど、不意に感情を揺さぶられた。

きっと山田なぎさは自分の母親のような大人にはならないだろう。

きっと作品中に出てくる、彼女たちを見守る「担任の先生」のような大人になるだろう。
中学生からすれば空気が読めない大人に見えるかもしれないが成長すれば、読めないフリをして見守る大人を見つけることができるだろう。
兄がさなぎから羽化できたように、山田なぎさも見守る大人になっていくのだろう。
そんな予感がこの作品の唯一の救いだと思う。


それにしても海野藻屑のキャラは不思議かつ強烈だ。

このキャラクターを描き出す桜庭の凄みを感じる。
切実な痛みに満ちた青春文学、というのは納得できる。
後出しジャンケンみたいで説得力はないが、のちに賞をとる作家さんになるのは必然だったのだろう。
砂糖菓子の弾丸は苦い味がしたが、読んで良かったと思う。

そして心置きなく、今度こそ次の段階の桜庭作品を読みすすめることができるのだ。