吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

肝、焼ける --朝倉かすみ

「BOOK」データベースより引用
歳下で遠距離恋愛中の彼氏に会うために、こっそり訪れた稚内。地元の人たちの不思議なパワーのおかげで、もやもやした気持ちが変化していく。「肝、焼ける」―激しいじれったさを表す方言が、真穂子を新たなステップに駆り立てた!?
30代独身女性の「じれったい気持ち」を軽妙に、鮮烈に描く第72回小説現代新人賞受賞作を含む短編5作を収録。


「田村はまだか」が面白く、はやとんさんからのお奨めもあったので早く読みたかったのですがようやく文庫が出ました。朝倉かすみさんのデビュー作です。


●「肝、焼ける」
「肝、焼ける」とは北海道の方言で、「じれったい」という意味です。
遠距離恋愛中の31歳女性が、彼の住んでいる地に約束もせずに会いに行きます。会えるまでの間、銭湯などで見知らぬ人たちとの会話や回想から、彼に会いたい女性の焦れた感情がうまく表現されています。
終わり方はこれからを予感させ、いい感じです。表紙とリンクしているみたいですね。(文庫版です)

 

●「一番下の妹」
三人しかいない職場に勤める20歳代の女性と二人の40歳代独身女性の日常会話がメイン。
共に悪口を言い合い、間に挟まれてストレスを溜める20歳代女性がついに・・・
実は多分少数派かなあ、と思いながらこの作品が一番面白いと思いました。
ドロドロしてそうに感じるかもしれませんが、これも割りと気持ちのいい終わり方でした。
 
●「春季カタル」
花粉症とアレルギー症状で苦しんでいる時に感じるあの全てを投げ出したくなる気だるさは嫌なものですがそんな状態の彼女が結婚前にもかかわらず見知らぬ男と一夜を共にする話し。これはピンとこない作品でしたけど女性が読むと共感できることもあるのかな?
 
●「コマドリさんのこと」
もう少し短くてもよかったかなあ。
普通に生きることを心がけてきた40歳代独身の「コマドリさん」の子供の頃から今までの立ち位置が語られる。
飼っているうずらが象徴しているのかな。
 
●「一入」
主人公の女性は13年間付きあってきた男にプロポーズしたのに予想外にも曖昧な返事しかされず、頭に来てわかれてしまう。
結婚5年目の女友達と温泉旅行に行き、そこで、繰り広げられる会話がなかなか楽しめる。
最後は「あ、なんかいいな」と思えるような終わりでまたまた○。
題名の「ひとしお」って、こんな字だったとは知りませんでした・・・

あちこちに散見できる細やかな表現力は独特です。ちょっとまわりくどいと感じる時もあるし、説明はいいから先に進んでくれないか?などと思ってしまうことも正直あります。総じて落ち着いているというか抑え気味の設定が多く、勢いよく読めませんでした。(それが持ち味だと思っているので悪い意味ではありません)
それぞれの置かれている状況から飛び出そうとしたり、足掻いている登場人物たちに素直に共感できることは有るのですが、女性のほうがよりストレートに共感できるのかもしれません。
全体的にユーモアを含む会話の妙みたいなものを感じることができ、デビュー作にしては老練さを滲ませる表現力はたいしたものです。
田村はまだか、はこれら一連の作品を洗練させた作品なんだなあと思いました。


でも解説の豊由美さん、朝倉さんに入れ込みすぎではありませぬか?(笑)