吉祥読本

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僕たちは歩かない --古川日出男

心地の良いテンポで語られる世界は、2時間多い26時間の世界。

 

一日がもう少し長いといいなと思ったことは結構いるのではないかと思いますが、

 

そんな世界に迷い込んだ「僕たち」の切なさと成長が描かれたファンタジーと呼んでもいい作品です。



日本で鬱屈とした日々を過ごしている海外のレストランで修行してきた若者たちが、

 

全く別々のルートで2時間多い世界の入り口を見つけてしまう。

 

「僕たち」はその世界で出会い、研究会を作り自分たちの料理に腕をふるいはじめた。

 

そして「僕たち」を突然襲う喪失感とその後の仲間との再会への「歩かない」戦いは

 

不思議で、滑稽で、切ない。

 

古川さんの作品のなかでは、読みやすい作品でした。

 

設定は現実的ではないのですが、いつもの強いエネルギーを放出しまくる文章とは違い、

 

静かで繊細で、テンポを重視した文章には好感をもてました。

 

忙しさに追いまくられ、殺伐としている時には特にこの作品は効き目があるような気がします。

 

なぜなら自分がそうだったからです。

 

このところの忙しさに嫌気が差し、小一時間でしょうか、携帯の電源を落とし、

 

図書館に避難しながらこの作品を一気に読み終えるとなんとなく心が軽くなった気がしました。

 

そういえば以前も図書館で一気読みした作家が古川さんだったっけ。(「ハル、ハル、ハル」でした)

 

良し悪しは別にして短時間で読むにはリズム感のある作品がいいのかもしれない。

 

差し込まれているイラストがうまく文章と溶け合っていて、

 

さほど長くない作品にいい具合に味付けになっている。

 

古川さんの場合は短編よりも長編の評価を高めにしているのですが、

 

これぐらいの作品(100ページくらい)でも切れ味を感じる作品でした。

 

期待していなかったのですが、ちょっと拾い物だった感じでしょうか。