吉祥読本

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華氏451度 ::レイ・ブラッドベリ

ブラッドベリが1953年当時、に危惧していた先端技術への危機意識がこの作品を書かせたようです。
先端技術と言ってもブラッドベリが対象にしていたのはテレビ。
ただしその技術の対象を読む時代によって置き換えてさえいけば違和感のなくなる普遍的な作品であることは間違いないでしょう。

 

政府はテレビという「家族」を利用することによって大衆を思考停止、画一化させるため、邪魔になる本を焼き払う政策をとっている。
実際に焚書作業を行う「ファイアーマン」があることをきっかけに自らの行動に疑問を持ち、禁止されている読書を行うようになる。
当局に密告され、追われる身となるファイアーマンの顛末を描いているわけだが、
最後まで目が放せない展開を楽しむと共に考えさせられた。

 

読書を禁じられる状況になったら結構辛いなあと思うが、歴史を紐解けばナチなどによる焚書は実際にあったわけだし、焼かないまでも政治的、風俗的に発禁され、一般人が目にする事ができなくなった本は日本にだってある。
勿論どんな本でも発行していいのか?とは思うが、時代や状況が変われば価値観も変わってしまうわけで何も焼かなくても、と思う。捨てることすらできない身としては焼いてしまうなど辛すぎる。

 

かつて日本でもテレビによる「一億総白痴化」という言葉で危機感を取り沙汰されていた時期があったが、確かにメディアの影響力は今でも大きいし、テレビや新聞で語られることを盲目的に信じている人たちもまだまだ多いように感じる。
インターネットの普及で既存メディアの情報操作の怖さを指摘する人が多くなってきたが情報が多すぎてより高度な取捨選択能力が必要になってしまった。
古い内容ではあるがこれから先も起こり続けるであろう新しいメディア(技術)への危惧はこの作品と共に色褪せることはないでしょう。
ラストで描かれる人間のとどまる事がない知識欲求の根強さと知識を守ろうとする姿に、疑うことと闘うことを忘れない限り、自由は担保されるものなんだと思った。



余談ですが、読みながら頭の中は「ラジオスターの悲劇」ヘビーローテーションでした(笑)