吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

少女外道 /皆川博子

これは題名的にちょっと抵抗がありました(苦笑)
ま、変な作品ではないですから気にしなくていいんですけれど。。。おっさんは困ってしまうのだ。

 

「蝶」ではガツンとやられてしまいましたが
この作品は主に語り部が子供の頃、日本が戦争に大きく関わっていた時期を回顧していたり
当時の生活を淡々と描いている場面が多く、蝶に比べるとインパクトに欠ける印象です。
いや、インパクトに気付くのにタイムラグがあるというのが正解か。
貧しく、たくましく、今で考えれば過酷な境遇にありながらも生きてきた人たちの姿に
当時の日本の状況が透けて見える。
皆川さんがすごいと思うのは、戦争の影響で翻弄される人々の姿を描いているようで
実は戦争とは関係なく、本質的に人の心の中に隠されている闇を描いているところだと思う。
子供を含む多くの人が持つ悪意、狂気をさりげなくちらつかせ、それでいてどこか官能的なのだ。
文章はやはり綺麗だし知性を感じさせるが、軽い気持ちで読んでいると
「あれ?結局何を言いたいのだろう?」 「一体何を描いていたのだろう?」と疑問を持ってしまう。
そこで改めて読み直してみると、思わぬ世界が隠れていた事に気付いてしまうのだ。
「蝶」で味わったゾワゾワ感と違い、自分の身近でも思い当たる場面があるため、
本当はこちらの作品集のほうがリアルで怖いかもしれない。
例えば「巻鶴トサカの一週間」の葬儀場で交わされる姉妹たちの会話など、よ~く読むとあり得そう。
実際そんな状況を近くで見たこともあったっけ(苦笑)

 

この作品は戦争が背景にあるからという理由ではなく、色々な場面を経験しないと理解しにくい部分が
あると思う。
勿論子供の頃に感じた事として共感できたり思い当たるフシがあったりもするが、
回顧する年齢になると、経験によるいっそうの深みを感じられるのではないでしょうか。
どの作品も構成力、描写力に関しては凄いですが、気分が下降気味な時には
ちょっと控えたほうがよさそうです。
気付かないうちにジワジワとボディブローのように効いてくるんですよ。



作品リスト
「少女外道」 「巻鶴トサカの一週間」 「隠り沼の(こもりぬの)」 「有翼日輪」
「標本箱」 「アンティゴネ」 「祝祭」