吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

ブラフマンの埋葬 ::小川洋子

泉鏡花賞受賞作です。
舞台はどこかあやふやな場所にある「創作者の家」。
そこではホルン奏者や碑文彫刻師やレース編み作家など色々な分野の芸術家に創作の場を与えている。
住み込みとして芸術家たちの世話役をしている主人公の青年は、芸術家たちと適度な距離を保ちながら
生活している。

 

ある日、そこに謎の生物が現れる。
ブラフマン」と名づけられた動物は、最初は犬かと思ったが、鉤爪や長い尻尾、
机の脚などを齧ったりするので大きな鼠か?
と思いきや指には水かきがあって泳ぐ事もできる。ビーバーか?
結局最後までその動物の正体は分からない。小川さんの創作動物なのでしょう。
また、主人公の青年や芸術家たちについてもほとんど説明が無く、すべてが曖昧な存在。
多分謎のままでよいのでしょう。読者の想像力を試しているのでしょうか。

 

ブラフマン」とはサンスクリット語で「謎」という意味。
環境や人物たち、動物を含め何もかも謎のままだし、そのうえ誰もが一定の距離感を保ったままなので
作品全体が物静かで心地がよい。

 

唯一といってもいい深い交流が描かれるのは主人公の青年と謎の動物の係わりだ。
言葉がわかるかのような仕草や、主人公を守ろうとする姿などは愛くるしい。
言葉を話せない動物を代弁するかのように表現しながら接する青年にも好感がもてる。

 

静かで淡々とした時間が描かれているが、墓石に代表されるようにお得意の閉じた空間が描かれ、
題名からもわかるように「死」の匂いが漂う。
それでいて読後感にどんよりしたものはなく、やっぱいつもの不思議な小川ワールドなのでした。