吉祥読本

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夜市 --恒川光太郎

夏ですからってまだ梅雨ですが(笑)ホラー大賞ってベタな発想もありつつ、表紙に魅かれて購入。
なかなか趣きのある表紙です。
日本ホラー小説大賞というのでもう少し怖いストーリーかと思っていたのですが
思っていたようなおどろおどろしいホラーものではありませんでした。



「BOOK」データベースより引用

 

大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市にいかないか」と誘われた。
裕司に連れられて出かけた岬の森では、妖怪たちがさまざまな品物を売る、
この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。
夜市では望むものが何でも手に入る。
小学生のころに夜市に迷い込んだ裕司は、自分の幼い弟と引き換えに
「野球の才能」を買ったのだという。
野球部のヒーローとして成長し、甲子園にも出場した裕司だが、
弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。
そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだが―。第12回日本ホラー小説大賞受賞作。



あまりにさらりと二人が夜市に入り込むんでちょっと違和感がありました。
いずみちゃん、普通はそこで引き返すんじゃないの?泣くタイミングが遅いんじゃない?
と、独りでツッコミいれながら読みました。
夜市の雰囲気は幻想的で、なかなかいいですねえ。
異形の者たちも仰々しく出てくるのではなく、普通の人間のようにサラッと出てくるし
二人もサラッと受け入れているような気がします。
まあ、読んでるほうもそれでいいと思うところが不思議。

 

いずみが「男」から話しを聞かされるあたりからの展開はかなり面白かったです。
兄弟の哀しい想い、愛情は伝わってきました。



子供の頃にふと気になった暗闇を今はなかなか感じる事はできなくなってしまいましたが、
どこか懐かしい暗闇を見せられた気分になりました。

 

前半のひっかかりがなければもう少し面白く読めた気がします。
それとさらっとし過ぎていてもう少し読み応え感みたいなものが欲しかったです。
もうちょっとだけなんですけどね。それが惜しい!
ただ、デビュー作だってことは考慮しないといけませんね。




もう一話、「風の古道」という作品が併録されていますが、実はこちらの方が好きです。

 

12歳の少年が友人と共に普通の世界からひょいと異界の道に紛れ込む。
途中、「古道」を出る事が出来ないレンという旅人と出会い共に旅に出る・・・って感じなんですが
なかなか面白い世界観で、かつ古道の雰囲気がよく伝わってきました。。
この不思議な世界が自然に受け入れる事が出来ました。
読み終わってみるとその何気ない自然さが、この作者のうまさなんだろうなと思いました。
素晴らしい!

 

「レン」の語る過去はこの話しのキモなので書きませんが、よく考えられた話しで感心しました。
中編にしておくにはもったいない内容ですね。
というか、この長さに綺麗にすっきりとまとめたな、という感じでしょうか。



こちらの作品に大賞あげてもよかったんじゃないかなあ。。。
どっちにしてもホラーっぽくないんですが。

 

ちょっとこの作家さんは気に留めておこうと思いました。