吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

むかしのはなし --三浦しをん

三浦しをんさんの本は以前よりブロ友さんの書評を読むにつけ興味をそそられていたのですが、
ふと本書を見つけ、説明を読むと・・・・



三ヵ月後に隕石がぶつかって地球が滅亡し、抽選で選ばれた人だけが
脱出ロケットに乗れると決まっとき、人はヤケになって暴行や殺人に走るだろうか。
それともモモちゃんのように「死ぬことは、生まれたときから決まってたじゃないか」
と諦観できるだろうか。
今「昔話」が生まれるとしたら、をテーマに直木賞作家が描く衝撃の本格小説集!!



これは本書の説明からそのまま引用したのですが、伊坂作品の「終末のフール」+「実験4号」を
連想させる内容じゃあないですか!
三浦作品の初読が本書でいいかは別として、興味のほうが勝ってしまいました(笑)



「ラブレス」      (かぐや姫
「ロケットの思い出」 (花咲か爺)
「ディスタンス」    (天女の羽衣)
「入江は緑」      (浦島太郎)
「たどりつくまで」   (鉢かづき
「花」          (猿婿入り)、
「懐かしき川べりの街の物語せよ」  (桃太郎)



鉢かづき」「猿婿入り」という昔話は残念ながら知りませんでしたが、それぞれの章が
日本昔話のエッセンスを取り入れて現代の話しにアレンジしている、という構成になっています。
最初の作品「ラブレス」を読んでいる段階では慣れていないためか「かぐや姫」とのつながりが
わかりにくかったのですが、後の作品に進むとああ、なるほどと納得。(知らないお話は別ですが)
最小限のエッセンスを利用してうまく新しい話しになっていた。と、思う。

 

「隕石がぶつかって地球が滅亡し・・・・・・」のような設定もどこ?と言う感じだったが、
徐々に、さりげなくでてくる。
章ごとに独立した話しだと思っていたが、隕石が落ちてくるという背景は同じようで、
その辺の構成は「終末のフール」っぽい。「終末~」は小惑星でしたけどね。
人類の選ばれた人たちが木星に逃げる設定は「実験4号」っぽい。あっちは火星だったけど。

 

一人称で語られる各物語は、語り部がそれぞれ過去を振り返り、なぜ現時点の状況に到達したか、
という経緯をとりとめもなく「誰か」に伝えようとしている。
そう、各章共通してあるのは、誰かに自分を伝えたいという欲求の話しなのかもしれません。



一番面白かったのは最後の「懐かしき川べりの街の物語せよ」で、一番長い物語でした。
得体の知れぬ怖さを持つモモちゃんという男子高校生に翻弄される語り部たち。
ピントがずれている乱暴者であったり、三ヵ月後には死ぬと思われる状況のなかで
「死ぬことは、生まれたときから決まってたじゃないか」
と達観していたり。冷たいのか優しいのか。でもなんとなく魅力的な男。
彼らの不思議な関係は、もう少し読んでいたいなと思いました。

 

あと、他の章とのリンクがちょっとあって、伊坂作品っぽい小技も繰り出していました。

 

終末のフールでは3年後に小惑星が落ちてくる設定で、世の中は混乱したものの、
ようやく冷静さを取り戻した時点での話しでいたが、
本書はいきなり三ヵ月後に落ちてくることが通知される設定になっている。
あまりのことに現実感が伴わないのか、かなり冷静な人ばかりだ。
考える時間がないと、案外こんなものなのかなあ。考えても仕方ない事もあるしねえ。



昔話をモトネタに物語を作り出すっていうのは考えているよりも難しいと思います。
その点いろんな切り口を見せてくれて、器用な面白い作家さんだなあ、と思いました。
ひとつだけ、どうしても気に入らない作品もあるのですが(笑)



学生の頃、「浦島太郎のその後の話し」を創作する、という時間があって書いた事があります。
改めてそんな文章を書いてみたいな、と思いました。今の年齢ならどんな文章を書くのか。。。

 

その当時は、「玉手箱を開けたらタイムスリップしてまた子供たちが亀をいじめている場面に戻る」
みたいな結末を書いたと思うのですが、、、、やっぱり同じテイストしか浮かばないかも(泣)

 

進歩なし!!