吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

仏果を得ず --三浦しをん

文楽を知らない者としては、とても気軽にその世界に誘ってくれただけではなく、
とても楽しませてもらえました。登場人物たちの仕事に対する真摯な姿勢にも好感を持てました。
8編の演目が題名に据えられた連作小説なので、各話で演目の内容が少し語られ、
それがストーリーとも微妙に絡まりあう。もう少し文楽の知識があるとより楽しめたのでは、と思うこともありましたが、それでもこの世界を楽しむことができました。
ひとことで言うと恋愛あり、成長あり、の青春物語ですね。主人公は30歳越えですが(笑)いつまでもずーっと青春です!

 

ノリの軽いキャラで太夫の健(たける)が、天才的な実力を持つ偏屈な兄弟子である三味線の兎一郎は無理やりコンビを組まされます。徐々に心を開き協力し合いながら最後はお互いを認め合い、立派なコンビとなる決意をする経緯はすがすがしく、読後感は気持ちのいいものでした。
彼らを取り巻く「国宝」たちも軽い者から重々しい者までそれぞれキャラクターが立っていてる。
厳しいながらも結局は暖かい目で健たちを見守る重鎮たちの優しい人柄がそれぞれ伝わってきました。
健にラブホテルの一室を提供し住まわせてくれる誠二みたいな存在は、このストーリーには関係ないようにも見えますが、やはり彼の厚意がなければ芸に身を入れることができない事を考えれば、重要な役回りです。酒場で出会い、酔って「芸を極めたい」と言う健に、「協力するのも悪くない」と応じる誠二も軽すぎますが、人の縁なんて案外こんなものかもしれません。

 

この作品の題名の意味は、作中でもでてくる「仮名手本忠臣蔵」にありました。
 「金色に輝く仏果などいるものか。成仏なんか絶対にしない。生きて生きて生きて生き抜く。俺が求めるものはあの世にはない。俺の欲するものを仏が与えてくれるはずがない。」
健(たち)の仕事や人生に対する姿勢、全てがうまく表現されていると思います。

 

最近、文楽の世界の人が書いた本が文庫で平積みしてたのを思い出して探したんですが
見つかりませんでした。気付いたときに入手しておかないといけませんね。また、そのうちに。

落語を題材にした「タイガー&ドラゴン」のように宮藤官九郎でドラマ化してくれると面白そうです。