吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

歴史と戦略

著者:永井陽之助
出版社:中央公論新社

 

80年代に書かれたものだが、内容的は日露戦争や、第二次世界大戦を題材に書かれているためそれほど古さは気にならない。
ヒトラーアメリカへの宣戦布告に関する解釈は、そんな理由なのか?と信じがたいが色々な見方があるんだなあと思わされる。
また山本五十六乃木希典の評価に関する論考、真珠湾攻撃の評価、ルーズベルトへの解釈もなかなか興味深く読めた。
井上成美に対する高評価や「失敗の本質」への批判に関しては個人的な思いの強さを感じたが、冷静さの中に人間臭さが滲みだしているようで好感。

 

並行読みしていていつ読み終わるかわからない作品がある。

それは本書とは違い、むしろ近代的な兵器や戦争に関する内容だが、経緯説明で戦争における機関銃の登場が、その後の戦い方に相当な影響を与えたことが共通で記述されていた。

ターニングポイントとなる武器はいくつもあるだろうが、歴史や戦略、戦術というのは技術的な進歩に大きく影響を受けるものなんだなと、当たり前のことだが気づかされる。

武器の進歩が人間の命を救うためという目的だったとしても常に矛盾している事実にも気づかなくてはね。

歴史を知る大事さにも気づくことしきり。


2019/10/3読了

 

 

暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

著者:牧久
出版社:小学館

 

松崎明という革マル派労働組合を利用しながら国鉄、JRを牛耳っていたという事実にうんざりする。
その昔、本書でも参考にされている立花隆の「中核VS革マル」を読んだが、その時の内ゲバや対立、分裂がそのまま国鉄、JR内で展開されていて再読した気分。
労働組合って何?トラジャとかマングローブって。。。
暴力やマスメディアに対する圧力、利用客と安全性を無視して自己主張に明け暮れていたら労組が衰退するのも当たり前。
ようやく革マル派の影響力が落ちて来てこの手の本が増えて来たのかな?
それでも左翼系の政治家との関係を含め、まだまだ根が深い闇があるんだろうね。

JR北海道ひとつとっても社長が自殺していたり事故が頻発していたり、
とても異常な状況だが、労働組合の力を削ぐための民営化は果たして成果があったのだろうか。
東日本や西日本、東海のようなドル箱を抱える会社は今後も発展していくだろうが、
経営が上向くことがとても難しそうに見えるJR北海道などは民営化のメリットはあったのか疑問。

もちろん労働組合自体が悪いわけではないが、今の時代には受け入れられなくなりつつあることも確かだろう。
労働組合が弱体化し本来のサービス向上に重点を置きつつあるだろうし、期待もするが、JRが抱える問題の解消はまだ先にあるような気がする。
これからJRがどのように変化していくか、見守りたい。


この作品は図書館本だが、薄い鉛筆で結構な量の書き込みがあった。
線が引いてあったり、丸で囲んであったり、段落がカッコで括られていたり。
あまり意味を感じない箇所にチェックしている気がするので目的はわからないが
何かしらの勉強や研究をしたいのであれば、自分で買って好きなだけ書き込んでほしい!

 

そんな気持ちを味わいたくなければお前も買えって?
返す言葉もございません。。。


2019/9/30読了

戦国十二刻 始まりのとき

著者:木下昌輝
出版社:光文社

 

応仁の乱相国寺炎上から脈々と繋がるその後の時代の変わり目を描く連作集。


登場人物たちにかかわるアイテムがうまい具合に繋がっていて楽しめる。


稲葉城乗っ取りにまつわる「小便の城」は他の話とは雰囲気が違いコミカルにも思えたが案外こんな顛末だったかもねと思わせてくれ、好きな作品。


また、勇猛果敢な島津義弘に対する徳川側の目線の違いに、そんな切り口があるのかと驚いたが更に幕末まで話が飛ぶ展開に二度驚いた。

木下さんの快刀乱麻ぶりを堪能しました。

 

先日、勝海舟の作品を読んだタイミングで偶然、勝海舟ゆかりの地に訪れたのだが、

今回も本書を読み終わったタイミングで井伊直弼墓所でもある豪徳寺に訪れた。

豪徳寺近辺に住んでいたことがあるので以前にも訪れているが、関係を覚えていなかったので驚いた。

たまにこんな偶然が重なると呼ばれたのだろうか?と思ってしまうが、案外東京は狭いから歴史絡みの本を読むとかなりの割合でゆかりの地にあたるのかもしれないですね。

 


2019/9/24読了

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

著者:ブレイディみかこ
出版社:新潮社

 

イギリスに住む著者と子供を通して見えてくる様々な現実に考えさせられる。
人種や格差問題が親しみやすい文体でとても分かりやすい。
いずれ日本にも同様の問題が溢れてくるだろう。
子供たちの置かれた環境がいかに大人たちの事情に影響されるか心が痛むが、
悩みながらも柔軟に成長していく子供たちに頼もしさも感じる。
著者の息子が相手を思いやりながら語る言葉とさりげない行動に、
つい子供の頃と比べてしまい恥ずかしい気持ちになったが、
こんなオッサンに現在の子供の目線を与えてくれたことに素直に感謝したい。

 

自分の思う多様性は既に時代遅れだったり勘違いだったことに気付きました。
誰もがそれぞれ違うということを受け入れ、自分の価値観を押し付けることなく
なおかつ共存していくということはとても難しいことだと思う。
多分無理。
それでも、考えながら少しでもできること積み重ねることが大切なんだろうな。
今になって自分が成長できた気分です。
まさに子供から大人まで全ての世代に読んでみてほしい作品です。


関係ない話。
かなり前にイギリスのブライトンには旅行で2泊くらいしたことがあったので
そういえばあの桟橋は?と思って調べてみたら、嵐で崩壊、そして焼失してしまっていた。
思い出の場所がそんなことになっていたなんて。。。残念です。
大きいスーツケースの車輪が壊れてしまって坂道を押しながら上り下りした思い出とともに記憶には鮮明に残っています。また行けるといいな。


2019/9/15読了

サイバー完全兵器 -世界の覇権が一気に変わる-

著者:デービッド・サンガー
翻訳: 高取芳彦
出版社:朝日新聞出版

 

アメリカだけが最先端のサイバー兵器を駆使しているわけではない。
ロシア、中国、イラン、北朝鮮等、アメリカにとっての脅威は増大する一方だ。
もちろんそれは日本をはじめとする世界のどの国にとっても同様だということ。
莫大な軍事予算が無くてもサイバー戦で対抗できる非対称的戦略は核兵器を持たない日本にこそ必要なのでは?
見えないモノによる兵器の無力化やインフラ破壊など、諸刃であることを見せつけることも必要なことなのだ。

 

自社サーバのログを見ると毎日攻撃されていることがわかる。
今のところ弾いているが、大規模な攻撃があればウチみたいなレベルでは防ぐ手立てはない。
土日になると攻撃が減るということは、どのような手法で何が起きているかは明白でしょう。もちろんそれは手法の一つでしかない。日本はどうもこの手の危機感が不足している気がしてならないが、政治家に期待しても無理かな。

 

周辺国との関係がうまくいっていない今、突然都市機能が麻痺することになったり、
飛来するミサイルを迎撃しようとした時に発射ボタンが反応しなかったり、
迎撃ミサイルが何故か国内に向かったりしない保証はどこにもない。
そして、こんな現実の中で生活しているんだと改めて思わされる一冊だった。


2019/9/10読了

穴の町

著者:ショーン・プレスコット
翻訳:北田絵里子
出版社:早川書房

 

町に関する本を書こうとしている作家志望の主人公が特に特徴のない町に住みつく。
活気がない廃れつつある町に住み続けている人たちの閉塞感が読み手にも感染してくる。
感覚的ではなく物理的に穴ができてくる町から都市へと向かう主人公。
忘れたくない思いとそれを捨てて行くしかない現実を表すかのようなシエラのカセットテープ。
作者の伝えたいことが何となくわかりそうだが消化不良。
最後の解説を読んでようやく著者の込めた思いが伝わってきた気がする。
オーストラリアの歴史に詳しければもう少し深いところを感じながら読めたのだろう。。


2019/9/1読了

タコの心身問題 ― 頭足類から考える意識の起源

著者:ピーター・ゴドフリー=スミス
翻訳:夏目大
出版社:みすず書房

 

題名からもう少し軽いタッチの作品化と思い込んでいたが、かなりまじめな作品だった。
著者が哲学者かつダイバーとのことなのである意味納得の文章ともいえる。
内容は著者がオーストラリアで見つけたタコが多く集まるポイントを見つけ
(オクトポリス)そこでタコの生態を観察しながら意識の発生に関する考察や
環境の違いによる進化の過程を推測してみたりを繰り返している著者の様が綴られる。
イカを含む頭足類に関しては面白い情報もあって興味深いが、若干冗長な部分もあり。
とにかく頭足類の生態は凄いので類似本も読む予定。

 

なんだかんだ言っても個人的にはイカが好物なんだが、最近おいしいイカを食ってないなあ・・(本書とは全然関係ない独り言として気にしないでほしい。)


2019/8/26読了