吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

歌われなかった海賊へ

著者:逢坂冬馬 
出版社:早川書房 


前作「同志少女よ、敵を撃て」はエンタメ的に仕上げられた中に考えさせる内容が

仕込まれていたが、本作は全てにおいて考えさせる作りだと感じた。

著者が本当に書きたかったのはこちらなのではないかと。

ナチス政権下のドイツが舞台。

エーデルヴァイス海賊団の若者たちはそれぞれの思うまま、

一定の距離感を保つことを約束に、ナチス政権に対抗すべき行動を共にする。

見えているものだけが真実ではない。

見る角度を変えることで初めて見える真実があることがあるのだ。

本書を読んでいると、佐藤亜紀の「スウィングしなけりゃ意味がない」が

思い起こされるが、テーマは同じなのだろう。

現在世界で起きている様々な問題を関係ない出来事だと思うなよ、

と突きつけられているかのよう。

 

夢みる宝石

著者:シオドア・スタージョン
翻訳:永井淳
出版社:早川書房


長い間積んでいたが、昨年新訳版が出てしまったので慌てて読む。

久しぶりのスタージョンはやっぱりスタージョンだ。当たり前だ。

「人間以上」同様、特殊能力と人間関係の描き方が独特で

ストレートに理解することが難しいが、

読み進めるに従いその奇妙な世界観が沁み込んできて目が離せなくなる。

何とも愛おしい気持ちが湧いてくる。

そうそう、これがスタージョンなんだな。きっと。

スタージョンの独特な愛情表現には翻弄もさせられるが、

生き物としての水晶を通して映し出す人間の本質を見せつけられているようだった。


新訳版だともう少し分かり易くなっているのかもしれないが、

いやいや十分堪能できた。

もう少し早く読んでおけば良かったと思える作品だった。

そしてそろそろ「人間以上」の再読もしたい。。早いうちに。

 

戦国武将伝 東日本編/西日本編

著者:今村翔吾
出版社:PHP研究所


■東日本編

都道府県から武将を選び、東日本編、西日本編として
2分冊の短編集として仕上げている。
東日本編は有名どころの武将から全く名前を知らなかった武将まで
北海道・東北・関東・中部地方の武将が23人取り上げられ、
さりげなくリンクしている作品もあり短いながら楽しめる内容だった。
上杉謙信武田信玄の関係を描いた作品が特に好きな作品。

●作品リスト

群馬県】 黄斑の文-長野業正
【東京都】 竹千代の値-徳川家康
【神奈川県】 汁かけ飯の戦い-北条氏政
【千葉県】 青に恋して-里見義弘
【愛知県】 阿呆に教えよ-織田信長
秋田県】 由利の豪傑-矢島満安
静岡県】 義元の影-今川義元
山形県】 裸の親子-最上義光
【埼玉県】 武州を駆ける-太田資正
山梨県】 暮天の正将-武田信玄
福井県】 高くとんだ-富田長繁
新潟県】 蒼天の代将-上杉謙信
青森県】 津軽という家-津軽為信
富山県】 半夏生の人-佐々成政
福島県】 雅なる執権-金上盛備
岐阜県】 完璧なり-竹中半兵衛
【栃木県】 春に向けて耐えよ-宇都宮国綱
茨城県】 鬼の生涯-佐竹義重
【北海道】 風の中のレラ-蠣崎慶広
宮城県】 頂戴致す-伊達政宗
岩手県】 松斎の空鉄砲-北信愛
【石川県】 猿千代の鼻毛-前田利常
【長野県】 真田の夢-真田信幸

 

■西日本編

東日本編に続き、西日本編は近畿・中国・四国・九州の武将24人を描く。
加藤清正の作品は「八本目の槍」とのつながりを感じる。
戸次道雪や豊臣秀吉の作品も短いながら纏まっていて良い感じ。

東西合わせてもう少し長い作品の布石であってほしい短編が多かったので
今後に期待したい。

●作品リスト

広島県】 十五本の矢-毛利元就
島根県】 謀聖の贄-尼子経久
山口県】 帰らせろ-大内義興
奈良県】 九兵衛の再縁-松永久秀
佐賀県】 老軀、翔ける-龍造寺家兼
岡山県】 宇喜多の双弾-宇喜多直家
滋賀県】 四杯目の茶-石田三成
大分県】 雷神の皮-戸次道雪
三重県】 何のための太刀-北畠具教
兵庫県】 未完なり-黒田官兵衛
鳥取県】 夢はあれども-亀井茲矩
【宮崎県】 泥水も美味し-伊東祐兵
長崎県】 海と空の戦士-有馬晴信
熊本県】 小賢しい小姓たちよ-加藤清正
和歌山県】 孫一と蛍-雑賀孫一
京都府】 旅人の家-足利義昭
大阪府】 土を知る天下人-豊臣秀吉
香川県】 三好の舳-十河存保
高知県】 土佐の土産-長宗我部元親
愛媛県】 証を残す日々-加藤嘉明
【鹿児島県】 怪しく陽気な者たちと-島津義弘
沖縄県】 三坪の浜の約束-謝名利山
徳島県】 古狸と孫-蜂須賀家政
【福岡県】 立花の家風-立花宗茂

2023年の10冊

今年も終わりですね。早いものです。


今年も印象的な作品を10冊セレクトします。
選択した中での読書順なので順位付けはしていません。

 

●天路の旅人
著者:沢木耕太郎
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/02/24/115152

 

●火を熾す
著者:ジャック・ロンドン
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/03/31/150323

 

キーエンス解剖-最強企業のメカニズム
著者:西岡杏
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/04/29/111128

 

●人間の土地
著者:サン=テグジュペリ
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/07/12/164422

 

●黒い海  船は突然、深海へ消えた
著者:伊澤理江
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/08/29/150620

 

イラク水滸伝
作者:高野秀行
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/08/30/162413

 

●最後の三角形
著者:ジェフリー・フォード
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/10/20/150014

 

半導体戦争-世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防
著者:クリス・ミラー
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/10/26/144651

 

●八月の御所グラウンド
著者:万城目学
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/11/22/152120

 

●幽玄F
著者:佐藤究
https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/12/12/160359

 

 

「イクサガミ 地」や「ギケイキ3」は面白かったのですが完結していないので
外しました。
「仮面物語: 或は鏡の王国の記」「夢分けの船」は入れたかったのですが
作家推しということで。
「天下大乱」「777 トリプルセブン」も面白かったのですが泣く泣く外しました。
久しぶりに万城目学作品を入れましたが、読後、時間が経ってから
どんどん評価が上がってきました。
まだ他にも面白い作品はあったのですが、63冊しか読んでいないのでこの辺で。

 

ご訪問頂いた皆様には大変感謝しております。
よろしければ来年もお相手して頂ければ幸いです。

来年も良き本と出会えますように!

 

黒い絵

著者:原田マハ
出版社:講談社


著者初の「ノワール小説集」とのことで期待したのだが、

久しぶりに読んだ原田マハの作品は求めていたイメージと大きくずれていて困惑した。

小田雅久仁の「禍」直後だけに大きなフォントと広い行間の構成にむしろ戸惑い、

目に優しいなあと思いながらあっという間に読み終えてしまった。

原田マハとしてはダークな部類かもしれないが、

小田雅久仁のダークを読んだ直後には弱すぎて残念。

かなり前に書かれた作品とはいえ、原田マハがダークはともかく

エロティックな作品を書いていることに驚いた。

勿論、美術、芸術と絡めているので「らしい」といえば「らしい」のかもしれないが

なんとも中途半端な印象。

できればダークを突き詰めた長編作品を読んでみたいのだが。


【収録作品】
 「深海魚」
 「楽園の破片」
 「指」
 「キアーラ」
 「オフィーリア」
 「向日葵奇譚」

 

著者:小田雅久仁
出版社:新潮社 

 

体の一部をモチーフに書かれた短編集。

濃度の高い言葉を隙間なく詰め込んだページの連続。

フォントサイズも小さめでページ数以上に情報が多い。

そのうえ畳み込まれる気色の悪い描写に脳みそが追いつこうとフル回転させられ

疲労感もマックス。

状況描写の細かさが凄くてそれが気色悪さを増幅させる。

この著者は以前からそうだが、改めて発想力の独特さを思い知る。

一概にホラーとも言えず、特に「髪禍」「裸婦と裸夫」の展開には思わず

苦笑いしてしまった。

そっちに行くのかあ。。。。

「食書」には著者の心情が現れているのかな、と思わせるような

鬼気迫るものがあった。

年内中に頭の中にチラつく本書で湧いたイメージを払拭したいのだが。。。

 


【収録作品】
「食書」
「耳もぐり」
「喪色記」
「柔らかなところ‥」 
「農場」
「髪禍」
「裸婦と裸夫」

ギケイキ3: 不滅の滅び

著者:町田康
出版社:河出書房新社


待ちに待った第3巻はあっという間に読み終えてしまった。

現代のエピソードを織り込んだ義経の語り口から察するに

町田康の体を借りて語っているのだろうか。

 

かつての勢いもなく落ちていく義経一行、

相変わらず意味不明の行動で唖然とさせる弁慶、

幾度となく死線をくぐり抜けてしまう義経四天王佐藤忠信

義経を匿い頼朝を絶妙にオルグる得業聖弘、

そして静御前の圧巻の舞いで締まる。

なんだか切ない。

 

第4巻(最終巻?)を早く読ませてくれ。