吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

【あ行】の作家

末裔 /絲山秋子

初の長編家族小説とあるように、今までの作品群とは趣きが違う。定年間際の公務員富井省三は3年前に妻を病気で喪い、息子は結婚して独立し娘とはうまくコミュニケーションがとれないまま実家を出てしまい居所もわからない。一人暮らしの家の中は荒れ放題とな…

こんな話を聞いた ::阿刀田高

久しぶりに読もうかなと思いながら入手したにもかかわらず、更に塩漬けにしていました。18の短編集です。各作品の出だしが全て「こんな話を聞いた」ではじまります。そして短いエピソードがあり、続けて本編に入るフォーマットで統一されている。エピソード…

1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター /五十嵐貴久

今か今かと思いつつ、なかなか文庫が出ないので図書館で借りてしまいました。題名はもちろんディープ・パープルの有名曲「スモーク・オン・ザ・ウォーター」がらみ。40歳代の主婦がひょんなことからロックバンドを組むことになって「スモーク・オン・ザ・ウ…

第七官界彷徨 ::尾崎翠

津原泰水さんの「琉璃玉の耳輪」を読んで興味を持った尾崎翠さん。飛びぬけて面白いわけではないが、何とも不可思議な作家さんだ。 痩せたひどく縮れた赤毛の女、小野町子は小野一助、二助の妹であり佐田三五郎の従妹。ひとつ屋根に同居しているこの4人を中…

3652 ::伊坂幸太郎

デビュー10年のタイミングで出たエッセイです。今まで色んな媒体に執筆した1ページから数ページ単位のエッセイ集で、絆のはなしにも掲載されていたものも一部あるようです。全体に伊坂幸太郎の好青年っぷりが伝わってきます。ファンでなければとりたてて読む…

ピカレスク 太宰治伝 ::猪瀬直樹

太宰治が自殺未遂、心中未遂を繰り返したことは大抵の方がご存知だと思います。気持ちが弱く常に死にたがっていた印象のほうが強いが、本書を読む限りむしろ逆で生きたがっていた印象を受ける。猪瀬さんがそのように書きたかったのだから当然か。 「みんな、…

ばかもの ::絲山秋子

気ままな大学生と、強気な年上の女。かつての無邪気な恋人たちは、気づけばそれぞれに、取り返しのつかない喪失の中にいた。すべてを失い、行き場をなくした二人が見つけた、ふるえるような愛。生きること、愛することの、激しい痛み。そして官能的なまでの…

小説以外 ::恩田陸

本好きが嵩じて作家となった著者は、これまでどのような作品を愛読してきたのか?ミステリー、ファンタジー、ホラー、SF、少女漫画、日本文学…あらゆるジャンルを越境する著者の秘密に迫る。さらに偏愛する料理、食べ物、映画、音楽にまつわる話、転校が多か…

アメリカの夜 ::阿部和重

今回読むまで勘違いしていたのですが、阿部さんは80年代デビューだとずっと思っていました。90年代だったんですね。騒がれたのを覚えていてずっと気にしながらも読まずに来た作家です。当時蓮實重彦や柄谷行人が褒めてたらしいし、数年前に源ちゃんが評価し…

象と耳鳴り ::恩田陸

先日行った三菱一号館美術館の記事を書いたところとても印象的な展示品だった「曜変天目」が恩田陸さんの「象と耳鳴り」にも出てくるとべるさんに教えて頂きました。本書は積んでいたので、ようやく読む理由ができました。ありがとうございます!(積んでお…

マリアビートル ::伊坂幸太郎

「グラスホッパー」の続編のような作品でした。勿論「グラスホッパー」を読んでいなくても問題ない作りになっていますが、随所につながりのある人物名が出てきます。う~ん、やっぱ読んでおいたほうがいいかも(笑)そこに「ラッシュライフ」や「陽気なギャ…

こころの王国 -菊池寛と文藝春秋の誕生 ::猪瀬直樹

菊池寛先生の秘書になった「わたし」。流行のモガ・ファッションで社長室に行くと、先生はいつも帯をずり落としそうにしてます。創刊された「モダン日本」編集部では、朝鮮から来た美青年・馬海松さんが、またわたしをからかうの―。昭和初年、日本の社会が大…

伊藤計劃記録 ::伊藤計劃

いくつかの短編とインタビュー記事と、映画評などを収録する著者最後の本です。 まず短編4本。 「The Indifference Engine」 内戦で異民族を殺す事が正義と教育された少年兵の姿を描く。 「虐殺器官」に繋がるであろう短編だが、現実に起きている事でもあり…

榎本武揚 ::安部公房

安部公房の作品としてはだいぶ毛色の違う作品です。果たしてどんな作品かと読み始めましたが、あっという間に引き込まれてしまいました。夏休みに京都に持って行く本として選んだのですが、歩いたばかりの地名が出てきたりすると妙に嬉しいものですね。 ノン…

バイバイ、ブラックバード ::伊坂幸太郎

発売と同時に買ったものの2ページ目くらいでそこから先に進めず、ずっと放置していたのですがようやく読み終えることができました。主人公の星野一彦は5人の女性と付き合っていて、その5人と別れの挨拶に向かう設定なのだが1章から5章までの構成はそれぞれテ…

押入れのちよ ::荻原浩

今くらいの時期に読もうと積んであったんですけど、ようやく棚卸しできました。ホラー短編集ですけど、とても怖い話というよりも、ちょっと怖いくらいですね。ほのぼのする印象の「コール」「押入れのちよ」「しんちゃんの自転車」人間の闇を描いた「お母さ…

ハーモニー ::伊藤計劃

本作は「虐殺器官」、「メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット」で描かれた混乱を経た後に選択された世界を描いている。今まで彼が描いてきた世界観が非常にわかり易く、そして彼の心の最深部が最も如実に描かれた作品だと言えそうだ。 「虐殺器…

Self-Reference ENGINE ::円城塔

彼女のこめかみには弾丸が埋まっていて、我が家に伝わる箱は、どこかの方向に毎年一度だけ倒される。老教授の最終講義は鯰文書の謎を解き明かし、床下からは大量のフロイトが出現する。そして小さく白い可憐な靴下は異形の巨大石像へと挑みかかり、僕らは反…

民王 ::池井戸潤

テレビやラジオから流れる「小鳩政権終焉」騒ぎを聞き流しながらこの作品を読んでいました。本書の主役は自民党政権の末期状態だった頃の政治家がモデルです。 「空飛ぶタイヤ」や「鉄の骨」をはじめとする骨太ながら痛快エンタメを送り出してきた池井戸さん…

信長(あるいは戴冠せるアンドロギュヌス) --宇月原晴明

1930年、ベルリン滞在中のアントナン・アルトーの前に現れた日本人青年は、ローマ皇帝ヘリオガバルスと信長の意外なつながりを彼に説いた。そして口伝によれば、信長は両性具有であった、と…。第11回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。 (本書裏表紙より抜…

TVJ --五十嵐貴久

テレビ局を謎のグループが乗っ取って、人質の一人になった彼氏を婚約者のOLが孤軍奮闘する、という内容。えと、ハッキリ言って突っ込み始めると字数制限に引っかかるくらい突っ込みどころ満載です。OL版「ダイ・ハード」であり、それに村上龍の「半島を出よ…

鉄の骨 --池井戸潤

中堅ゼネコンの一松組に入社して三年。富島平太は建設現場から本社の業務課に突然異動させられる。どうやら尾形常務じきじきの指名らしい。業務課は別名「談合課」と呼ばれるセクションでもあるらしい。業務課の仕事を理解していない平太の視点についていく…

エスケイプ/アブセント --絲山秋子

闘争と潜伏にあけくれ、20年を棒に振った「おれ」。だが人生は、まだたっぷりと残っている。旅先の京都で始まった、長屋の教会での居候暮らし。あやしげな西洋坊主バンジャマンと、遅れすぎた活動家だった「おれ」。そして不在の「あいつ」。あきらめを、祈…

株価暴落 --池井戸潤

巨大スーパー・一風堂を襲った連続爆破事件。企業テロを示唆する犯行声明に株価は暴落、一風堂の巨額支援要請をめぐって、白水銀行審査部の板東は企画部の二戸と対立する。一方、警視庁の野猿刑事にかかったタレコミ電話で犯人と目された男の父は、一風堂の…

SOSの猿 --伊坂幸太郎

ひきこもり青年の「悪魔祓い」を頼まれた男と、一瞬にして三〇〇億円の損失を出した株誤発注事故の原因を調査する男。そして、斉天大聖・孫悟空。救いの物語をつくるのは、彼ら……。著者最新長篇。(中央公論社Webサイトより引用) 「あるキング」で、ある意…

安徳天皇漂海記 --宇月原晴明

壇ノ浦の合戦で入水した安徳天皇。伝説の幼帝が、鎌倉の若き詩人王・源実朝の前に、神器とともにその姿を現した。空前の繁栄を誇る大元帝国の都で、巡遣使マルコ・ポーロは、ジパングの驚くべき物語をクビライに語り始める。時を超え、海を越えて紡がれる幻…

フリーター、家を買う。 --有川浩

近所の古書店で出るのを待っていたのですが、取引先に打ち合わせに行った際にはじめて入った古書店で入手できました。題名が示す通り、就職して三ヶ月で気に入らない会社をやめ、フリーターをやっていた武誠治が母親の心の病をキッカケに一念発起し、就職活…

始祖鳥記 --飯嶋和一

空前の災厄続きに、人心が絶望に打ちひしがれた暗黒の江戸天明期、大空を飛ぶことに己のすべてを賭けた男がいた。その“鳥人”幸吉の生きざまに人々は奮い立ち、腐りきった公儀の悪政に敢然と立ち向かった―。ただ自らを貫くために空を飛び、飛ぶために生きた稀…

不祥事 --池井戸潤

事務処理に問題を抱える支店を訪れて指導し解決に導く、臨店指導。若くしてその大役に抜擢された花咲舞は、銀行内部の不正を見て見ぬふりなどできないタイプ。独特の慣習と歪んだ企業倫理に支配された銀行を「浄化」すべく、舞は今日も悪辣な支店長を、自己…

あるキング --伊坂幸太郎

弱小地方球団・仙醍キングスの熱烈なファンである両親のもとに生まれた山田王求。“王が求め、王に求められる”ようにと名づけられた一人の少年は、仙醍キングスに入団してチームを優勝に導く運命を背負い、野球選手になるべく育てられる。期待以上に王求の才…