吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

2010-01-01から1年間の記事一覧

火星年代記 ::レイ・ブラッドベリ

随分前(十代)に読んだっきりなので再読しました。内容はほとんど覚えてなかったのですが、当時の自分としてはきっと退屈に感じて飛ばし読みしたのでしょう。感受性が豊かだったら楽しめたのかもしれません。が、再読してみて今なら断言できます。やはり名…

海賊モア船長の憂鬱(上下) ::多島斗志之

イギリス東インド会社に勤めるクレイは、インド東海岸にある港街、マドラスに到着した。謹厳実直で知られる上席商務員が“マドラスの星”と称される400 カラットのダイアモンドを手に姿を消したのだ。誘拐か、はたまた着服か。事件にはどうやら「果敢にして知…

ザ・万歩計 ::万城目学

第二弾のエッセイ、「ザ・万遊記」を先に読んでしまいましたが、はっきり言うとこの最初のエッセイのほうが断然面白い。それを考えると読む順番はこれでよかったのかもしれません。 共感できる話がいくつかありましたが、その中でもたけし映画の「Kids Retur…

タイタンの妖女 ::カート・ヴォネガット・ジュニア

シニカルでありながらユーモアと愛に溢れている作品でした。言葉にすることが難しいが、読後には寂寥感とか無力感が混じった哀しさを感じつつそのなかに小さな暖かみを感じさせるような印象を受けました。諸行無常という言葉もふと浮かびます。「猫のゆりか…

押入れのちよ ::荻原浩

今くらいの時期に読もうと積んであったんですけど、ようやく棚卸しできました。ホラー短編集ですけど、とても怖い話というよりも、ちょっと怖いくらいですね。ほのぼのする印象の「コール」「押入れのちよ」「しんちゃんの自転車」人間の闇を描いた「お母さ…

スポンサーから一言 ::フレドリック・ブラウン

傑作集と重複する作品もありますが、何度読んでも面白いものは面白い。いずれの作品もバラエティに富んだアイデアの塊です。ショート・ショートはいずれもキレがいい。少し長めの作品も時代を感じさせることを省けば充分楽しめます。よくあるパターンだな、…

ハーモニー ::伊藤計劃

本作は「虐殺器官」、「メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット」で描かれた混乱を経た後に選択された世界を描いている。今まで彼が描いてきた世界観が非常にわかり易く、そして彼の心の最深部が最も如実に描かれた作品だと言えそうだ。 「虐殺器…

倉橋由美子の怪奇掌篇 ::倉橋由美子

夜になると体を離れて首だけが恋人のもとに通う娘の怪しげな恋慕と残酷な死「首の飛ぶ女」。長風呂がたたってガイコツになった少年の病名は突発性溶肉症と診断された「事故」。夢の中に現われる世にも醜悪な男のたくらみ「交換」。元宰相ボーブラ氏はいかに…

分解された男 ::アルフレッド・ベスター

第一回ヒューゴー賞受賞作(1953年)をようやく読むことができました。ガチガチのSFだと思っていましたが、SFミステリと言ってもいいですね。 時代背景は24世紀、人類には人の心を読み取ることができる「超感覚者」(エスパー)たちが存在していた。第一級か…

それからの海舟 ::半藤一利

幕末の動乱期の中、幕臣の中心として江戸城無血開城という大仕事を成し遂げた後の人生を勝海舟はどう生きたのか。新旧相撃つ中で旧幕臣たちの生計をたてる道を探り、福沢諭吉らの批判を受けながらも明治政府の内部に入り、旧幕府勢力の代弁者としての発言力…

蒸気駆動の少年 ::ジョン・スラデック

既存のタイム・パラドックスをあざ笑う表題作、スプラスティック・コメディ「古カスタードの秘密」、あの“四重奏”の荒唐無稽なパロディ「ベストセラー」、重力はないと“証明”する男の狂気を描く「月の消失に関する説明」、名探偵のサッカレイ・フィンやフェ…

ナイフ投げ師 ::スティーヴン・ミルハウザー

「ナイフ投げ師」「ある訪問」「夜の姉妹団」「出口」「空飛ぶ絨毯」「新自動人形劇場」「月の光」「協会の夢」「気球飛行、一八七〇年」「パラダイス・パーク」「カスパー・ハウザーは語る」「私たちの町の地下室の下」の12編です。 集中力がなくても読んで…

暁の旅人 ::吉村昭

幕末から明治時代の本を読むとチラチラと出てくる松本良順の評伝です。この本でどのような役割を果たした人物なのかをかなり知る事ができました。 順天堂大学の創始者、佐藤泰然の次男に生まれ、オランダの医師ポンペに師事した良順はかなり優秀だったためポ…

Self-Reference ENGINE ::円城塔

彼女のこめかみには弾丸が埋まっていて、我が家に伝わる箱は、どこかの方向に毎年一度だけ倒される。老教授の最終講義は鯰文書の謎を解き明かし、床下からは大量のフロイトが出現する。そして小さく白い可憐な靴下は異形の巨大石像へと挑みかかり、僕らは反…

天才の栄光と挫折-数学者列伝 ::藤原正彦

自らも数学者である著者が、天才数学者―ニュートン、関孝和、ガロワ、ハミルトン、コワレフスカヤ、ラマヌジャン、チューリング、ワイル、ワイルズ―九人の足跡を現地まで辿って見つけたものは何だったのか。この世にいて天国と地獄を行き来した彼らの悲喜交…

民王 ::池井戸潤

テレビやラジオから流れる「小鳩政権終焉」騒ぎを聞き流しながらこの作品を読んでいました。本書の主役は自民党政権の末期状態だった頃の政治家がモデルです。 「空飛ぶタイヤ」や「鉄の骨」をはじめとする骨太ながら痛快エンタメを送り出してきた池井戸さん…

ペンギン・ハイウェイ ::森見登美彦

小学4年生のアオヤマ少年とウチダ君とハマモトさんが体験するワンダーランドは今までのモリミーワールドの子供版であり、そして新しいモリミーワールドでもありました。あちらこちらに見られるモリミーらしい何気ないそして巧い表現力は、ますます磨きがかか…

私はフェルメール ::フランク・ウイン

ナチスに協力した売国奴か、一泡吹かせたヒーローか。歴史上最も有名な贋作者の一人となったファン・メーヘレンの栄光と挫折の生涯が、膨大な資料を踏まえ、スピードとスリルに満ちた文体で甦る。(「BOOK」データベースより引用)美術史上最も有名な贋作者…

メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット --伊藤計劃

暗号名ソリッド・スネーク。悪魔の核兵器「メタルギア」を幾度となく破壊し、世界を破滅から救ってきた伝説の男の肉体は急速な老化に蝕まれていた。戦争もまた、ナノマシンとネットワークで管理・制御され、利潤追求の経済行為に変化した。中東、南米、東欧―…

第9地区

監督:ニール・ブロムカンプ脚本:ニール・ブロムカンプ、テリー・タッチェル出演:シャルト・コプリー最近の映画では一番観に行きたかった作品です。ある日南アフリカのヨハネスブルグ上空に巨大な円盤がやってきてそのまま上空で動かなくなる。故障して動…

どんがらがん --アヴラム・デイヴィッドスン

空前絶後の輝かしい受賞歴をもち、キプリングやサキ、G・K・チェスタトンに比肩すると評されるアヴラム・デイヴィッドスン。この才気と博覧強記の異色作家が遺した短篇を、日本の誇る才気と博覧強記の作家殊能将之が編んだ傑作選。超兵器“どんがらがん”をめ…

天地明察 --冲方丁

舞台は徳川家綱の時代。先日読んだ飯嶋和一氏の作品は島原の乱。島原の乱が終息した後に生まれたのが本作の主人公である渋川春海。この流れで読んだのは偶然だったが、同じ時代であってもひたすら重くのしかかる主題を描く飯嶋作品とからっと爽快で夢や希望…

LOVE --古川日出男

「。。。。だねぇ」今まで読んできた古川作品で困ったなあ、とか訳わかんね~なと思う作品がいくつかある。「ボディ・アンド・ソウル」とか、「ハル、ハル、ハル」とか。本書もなんて言うか、リズム感がつかめなくて、これは裏打ちで読めばいいのかなとか自…

スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン --小路幸也

東京、下町の老舗古本屋「東京バンドワゴン」。営む堀田家は今は珍しい三世代の大家族。今回もご近所さんともども、ナゾの事件に巻き込まれる。ある朝、高価本だけが並べ替えられていた。誰が何のために?首をかしげる堀田家の面々。さらに買い取った本の見返…

ぼくと、ぼくらの夏 --樋口有介

高校二年の夏休み、同級生の女の子が死んだ。刑事の父親と二人で暮らすぼくは、友達の麻子と調べに乗り出したが…。開高健から「風俗描写が、とくにその “かるみ”が、しなやかで、的確であり、抜群の出来である」と絶賛され、サントリーミステリー大賞読者賞…

ザ・万遊記 --万城目学

かのこちゃんが面白かったなあなどと余韻が残っている中、書店で出くわしてしまい買ってしまいました(笑)エッセイなんですが、一発目の「ザ・万歩計」も読んでないのにこれを先に読んでしまうなんて。。。ひとつひとつがかなり短い文章なので、もう少し長…

出星前夜 --飯嶋和一

「円を創った男」で大隈重信についてよく知らなかったと書いたが、この作品も同様で、島原の乱とか天草四郎などの歴史上の出来事や人物に関しては知っているようで知らないことばかりだったことを痛感した。「魔界転生」とかが真っ先に浮かんでくるもんなあ…

竹光侍(1~8) --松本大洋

ひさびさにこの書庫を更新しました(笑)ついに先日出たばかりの最終巻を読み終えました。侍を主人公にした独特な作品で、コマの一つ一つが独立しているかのようなレベルであり、表現もとことこんシンプルにしているため、わかりにくい点はあるもののコマの…

円を創った男―小説・大隈重信 --渡辺房男

日本初の政党内閣の首班にして、早稲田大学の創設者―。一般に大隈重信の業績といえばこれに集約されるが、大隈がその能力を最大限に発揮したのは、明治4 年の「新貨条例」の布告によって完成された幣制改革であった。新通貨「円」はいかにして生れたのか。若…

[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ --シオドア・スタージョン

超反射“シナプス・ベータ・サブ16”の調査に地球にやってきた探検隊は、ある下宿に人類のサンプルを集めて観察を始めるが、彼らはみなそれぞれに問題を抱えていて…。スタージョン的テーマが展開される表題作をはじめ、他人が必要としているものが読めてしまう…