吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

2010-01-01から1年間の記事一覧

象と耳鳴り ::恩田陸

先日行った三菱一号館美術館の記事を書いたところとても印象的な展示品だった「曜変天目」が恩田陸さんの「象と耳鳴り」にも出てくるとべるさんに教えて頂きました。本書は積んでいたので、ようやく読む理由ができました。ありがとうございます!(積んでお…

高炉の神様 ::佐木隆三

赤朽葉家の伝説を読み、本書を積んでいることを思い出した。今こそ読む時期でしょう。 明治初期に生まれ、八幡製鉄所で「宿老」として98歳まで働いた職工、田中熊吉さんの溶鉱炉に懸けた人生を描いています。著者の佐木隆三さんといえば「復讐するは我にあり…

ケルベロス第五の首 ::ジーン・ウルフ

地球より彼方に浮かぶ双子惑星サント・クロアとサント・アンヌ。かつて住んでいた原住種族は植民した人類によって絶滅したと言い伝えられている。しかし異端の説では、何にでも姿を変える能力をもつ彼らは、逆に人類を皆殺しにして間の形をして人間として生…

マリアビートル ::伊坂幸太郎

「グラスホッパー」の続編のような作品でした。勿論「グラスホッパー」を読んでいなくても問題ない作りになっていますが、随所につながりのある人物名が出てきます。う~ん、やっぱ読んでおいたほうがいいかも(笑)そこに「ラッシュライフ」や「陽気なギャ…

赤朽葉家の伝説 ::桜庭一樹

ようやく出た文庫版。我慢に我慢を重ね、ようやく読めました。 今更説明する必要も無いでしょうが、「辺境の人」に置き去られ、後に「千里眼奥様」と呼ばれる万葉、万葉の娘で暴走族上がりで売れっ子漫画家となる毛鞠、そして毛鞠の娘であり平凡に生きる瞳子…

アメリカの鱒釣り ::リチャード・ブローティガン

二つの墓地のあいだを、墓場クリークが流れていた。いい鱒がたくさんいて、夏の日の葬送行列のようにゆるやかに流れていた。―涼やかで苦みのある笑いと、神話めいた深い静けさ。街に、自然に、そして歴史のただなかに、失われた“アメリカの鱒釣り”の姿を探す…

民間軍事会社の内幕 ::菅原出

イラク戦争の際に登場した「民間軍事会社」は、究極の国家行為である戦争のイメージを大きく変えた。彼らの事業は、要人警護はもちろんのこと、戦闘地域でのロジスティクスから捕虜の尋問、メディア対策、さらには正規軍のカバーに至るまで多岐にわたる。そ…

閉じた本 ::ギルバート・アデア

事故で眼球を失った大作家ポールは、世間と隔絶した生活を送っていた。ある日彼は自伝執筆のため、口述筆記の助手として青年ジョンを雇い入れる。執筆は順調に進むが、ささいなきっかけからポールは恐怖を覚え始める。ジョンの言葉を通して知る世界の姿は、…

なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日 ::門田隆将

1999年、山口県光市で、23歳の主婦と生後11カ月の乳児が惨殺された。犯人は少年法に守られた18歳。一人残された夫である本村洋は、妻子の名誉のため、正義のため、絶望の淵から立ち上がって司法の壁に挑む。そして、彼の周囲には、孤高の闘いを支える人々が…

こころの王国 -菊池寛と文藝春秋の誕生 ::猪瀬直樹

菊池寛先生の秘書になった「わたし」。流行のモガ・ファッションで社長室に行くと、先生はいつも帯をずり落としそうにしてます。創刊された「モダン日本」編集部では、朝鮮から来た美青年・馬海松さんが、またわたしをからかうの―。昭和初年、日本の社会が大…

伊藤計劃記録 ::伊藤計劃

いくつかの短編とインタビュー記事と、映画評などを収録する著者最後の本です。 まず短編4本。 「The Indifference Engine」 内戦で異民族を殺す事が正義と教育された少年兵の姿を描く。 「虐殺器官」に繋がるであろう短編だが、現実に起きている事でもあり…

タマや ::金井美恵子

題名を見ればおわかりでしょうが百先生のノラやを意識している作品です。だからと言っていなくなったネコを探すわけではありません。むしろネコのように自由すぎる、そして勝手すぎる人間たちの話である。いや登場人物たちを見ているとネコのほうがきちんと…

スロー・ラーナー ::トマス・ピンチョン

読んで思い知らされたのが本書を読むには(いや、ピンチョンを読むためには)アメリカ文学をかなり読み込んでいないと理解できないことがいっぱいあるということ。それに気付かず、訳者解説やピンチョン自身の序文を読んで痛感させられるのだから始末が悪い…

輝く断片 ::シオドア・スタージョン

奇想コレクション中、最多の3タイトルを占めるスタージョンも、これが最後。大事に積んであったのですが(笑)そろそろガマンができなくなりました。SFというよりはミステリ色が強かったです。 「取り替え子」は初読のはずですが既読感がありました。子供を…

「三菱一号館美術館」と「ADMT」

久しぶりに美術館系に時間を作る事ができました。まずは丸の内にある「三菱一号館美術館」の「三菱が夢見た美術館―岩崎家と三菱ゆかりのコレクション」です。今回の目玉のひとつ、岸田劉生「童女像(麗子花持てる)」 です。実物は思っていたよりも小さい絵…

「悪」と戦う ::高橋源一郎

言葉の発達が遅いキイちゃん一歳半と、言葉の発達が早かったお兄ちゃん、ランちゃん三歳の兄弟の話しです。彼らのお父さんは、作家の高橋さん。宮沢賢治の「ことば」で胎教を繰り返したランちゃんのことばはあらゆる「文学」の引用であり、一方胎教を放棄し…

サキ短編集 ::サキ

ビルマで生れ、幼時に母と死別して故国イギリスの厳格な伯母の手で育てられたサキ。豊かな海外旅行の経験をもとにして、ユーモアとウィットの糖衣の下に、人の心を凍らせるような諷刺を隠した彼の作品は、ブラックユーモアと呼ぶにふさわしい後味を残して、…

新ナポレオン奇譚 ::G.K.チェスタトン

1904年に書かれた作品で、舞台は80年後の1984年、イギリス・ロンドンの未来を描いている。80年経っても今と全く変わっていない予言的過去時制というスタイルで書かれ、自分の設定した未来をさっさと否定してみせる。 日々同じ事を繰り返すだけの平和な時代に…

少年トレチア ::津原泰水

文庫版の表紙は少年というより青年が描かれている(萩尾望都)ので、内容のイメージがあまり伝わってこなかったが、読み始めは不気味で思っていた以上にグロテスクで嫌~な予感が。。。このペースでこの長編が続いたら辛いかも、と思うような展開です。子供…

新撰組顛末記 ::永倉新八

これも京都に持っていった本です。章が短いので「榎本武揚」が中途半端になりそうなちょっとした隙に同時に読みました。京都が出てくる頻度はこちらのほうが圧倒的に多かったので榎本武揚での京都の地名の記憶はこの本と混同しているかもしれません。(記事…

榎本武揚 ::安部公房

安部公房の作品としてはだいぶ毛色の違う作品です。果たしてどんな作品かと読み始めましたが、あっという間に引き込まれてしまいました。夏休みに京都に持って行く本として選んだのですが、歩いたばかりの地名が出てきたりすると妙に嬉しいものですね。 ノン…

『バイバイ、ブラックバード』をより楽しむために(ポスタルノベル編)

太宰治の未完の「グッド・バイ」が収録され、また伊坂幸太郎のインタビューで構成されている。この本は正直、「バイバイ・ブラックバード」と共に平積みされていたのを見た瞬間に「ついに商売に走ったな!」と憤慨した。と、思いながら結局同時に購入したん…

バイバイ、ブラックバード ::伊坂幸太郎

発売と同時に買ったものの2ページ目くらいでそこから先に進めず、ずっと放置していたのですがようやく読み終えることができました。主人公の星野一彦は5人の女性と付き合っていて、その5人と別れの挨拶に向かう設定なのだが1章から5章までの構成はそれぞれテ…

ブラックジュース ::マーゴ・ラナガン

奇想コレクションとしては珍しく表題が作品名ではありません。色を題名に絡めた短編集シリーズ(他に白と赤)と銘打っているようです。全作品を通して思うことは、あまりにも説明がないこと。いきなり知らない世界に投げ込まれ、一体何が起きているのかを理…

三四郎はそれから門を出た ::三浦しをん

近頃、本をたくさん読むということに関して上を見ればキリがないことに気付き、趣味は読書ですと言うのは止めようかと思うくらいです。そんな思いに追い討ちをかけるようなエッセイを読んじまってやさぐれているところ。三浦さん、色んな分野の本やマンガを…

すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた ::ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

青年はある晩、黒髪の美女が縛りつけられ、漂流しているボートを目にした。女を救出し、浜へと泳ぎ戻った青年は愕然とする。その人物は男だったのだ!盗品とおぼしき大きなルビーを腹部に隠していた男は、よく見るとやはり美しい女にも見える。その男はいった…

垂直の記憶 ::山野井泰史

昨年読んだ沢木耕太郎の作品、「凍」 で描かれたクライマー自信による著書です。沢木さんの文章は劇的で表現力に関してはプロですから素晴らしい作品でした。 2009年の10冊にいれちゃいましたからね。 自ら挑戦したクライミングのことが7章、それに6つのコラ…

海賊モア船長の遍歴 ::多島斗志之

シリーズ第二弾の「海賊モア船長の憂鬱」に続いてさっそく読みました。文庫本で2段組だった事に驚きましたが非常に読みやすくグイグイとストーリーに引き込まれ、こちらのほうが格段に面白かったです。 モアが率いる粗野で、下品で鈍感で、身勝手で、狡猾で…

4444 ::古川日出男

この題名を見た瞬間、これは読まねば、そう思いました。別に古川ファンだからとか、古川作品としては読みやすそうだなとか、成海璃子が絶賛したから(笑)とか、そんな理由ではありません。この題名で三津田さんが作品を書いたらどんな表紙であっても買うこ…

TAP ::グレッグ・イーガン

先に「祈りの海」を読もうと思っていながらなかなか手が伸びず先に奇想コレクションから手を付けました。 色んな分野が網羅されているのでグレッグ・イーガンの作風を絞り込む事は難しいですが短絡的に判断するとハードSFを得意とすると思われます。ただホラ…