吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

2011-01-01から1年間の記事一覧

悪魔の薔薇 ::タニス・リー

読む前には想像していませんでしたが意外にも「剣と魔法」の世界が多くて驚きました。ファンタジックかつブラックな隠し味は絶妙ですが、読むのに苦労する作品もチラホラ。文体に硬質な印象を受ける作品もあり翻訳者との相性の問題かもしれません。(翻訳者…

統ばる島 /池上永一

「竹富島」「波照間島」「小浜島」「新城島」「西表島」「黒島」「与那国島」「石垣島」 八重山諸島にある八つ島を舞台にした物語。 それぞれの話は独立していて短編集の体裁だが、実はちゃんとひとつなぎになっている。それぞれのテイストは違うが「バガー…

竜が最後に帰る場所 /恒川光太郎

「風を放つ」「迷走のオルネラ」「夜行(やぎょう)の冬」「鸚鵡幻想曲」「ゴロンド」の5篇。 「風を放つ」は正直なところ何が言いたいのか意味が掴みきれませんでした。ただ見知らぬ人間との電話での会話は相手が見えないだけでちょっと怖い。そんな怖さを…

キリマンジャロ・マシーン ::レイ・ブラッドベリ

ブラッドベリは詩人だなあとつくづく思う。SF界の叙情詩人と言われるのも頷ける。幻想的な小説とか奇想モノを読む者としてはブラッドベリにあまりSFっぽさを感じませんが解説にもあるように「郷愁」、「離別」というキーワードは作品を表現するうえでピッタ…

世界一の一般人がいる日本

東北地方太平洋沖地震にて被害に遭われた皆様には、心よりお見舞いを申しあげます。まだ不明となっている皆様方のご無事、一刻も早い捜索、救助が進むよう微力ながら願っております。また、厳しい環境の中で救助活動に従事されている方々に、また原発の復旧…

リメイク ::コニー・ウィリス

デジタル技術の発達でハリウッドではフィルムや役者が必要なくなり、往年のスターや映画データを使ったリメイク作品が新作として発表されているという世界。映画の中で本当にダンスを踊りたいという夢を抱いた少女とリメイクを行う男との恋愛ストーリーと共…

地球礁 ::R.A.ラファティ

「宇宙舟歌」が面白かったので調子に乗って読んだが、若かりし頃にもらったパンチをまたまた喰らった感じです(笑) この作品にはわりと詳細なあとがきがついていて、それ自体が全てを物語っているような気がしますがそこからラファティを表現するわかりやす…

末裔 /絲山秋子

初の長編家族小説とあるように、今までの作品群とは趣きが違う。定年間際の公務員富井省三は3年前に妻を病気で喪い、息子は結婚して独立し娘とはうまくコミュニケーションがとれないまま実家を出てしまい居所もわからない。一人暮らしの家の中は荒れ放題とな…

道鏡・家康 ::坂口安吾

道鏡、斎藤道三、豊臣秀吉、黒田如水、徳川家康、織田信長などを描いた中/短編集です。古い作品ゆえ読みにくい部分は多少ありますが独特の坂口安吾節とでもいうのでしょうか、ところどころに見られる講談のような語り口が臨場感を醸し出します。 「道鏡」 …

ページをめくれば ::ゼナ・ヘンダースン

子供を視点の真ん中に据え、侵略もの、異星人との交流、ホラーめいたもの、特殊な能力者など多岐にわたる世界を描いているのだが、著者は学校の教師をしていた経験があり、教師としての視点、女性、母親としての視点から全編をとても優しく包み込んでいます…

オリンピア ナチスの森で ::沢木耕太郎

ベルリンオリンピックの記録映画「オリンピア」は評価が高いというのは知っていますが実際には観たことがありません。ナチスドイツのプロパガンダ映画と言われた作品がなぜ評価が高いのだろうという疑問がありますが、実際に観ない事には判断はできませんね。…

本に埋もれて暮らしたい /桜庭一樹

桜庭一樹読書日記の第四弾です。相変わらずの読書量に驚き、編集者たちとの間に交わされる日常の楽しい会話が楽しめます。桜庭さんの読む本と自分の読む本のシンクロ率は徐々に上がっているような気がしていますが、それでもまだまだ知らない本がいっぱいあ…

ロールシャッハの鮫 /スティーブン・ホール

エリック・サンダーソンは目を覚ました。だが自分が何者で、どこにいるのか、まったく思い出すことができない。失われた記憶の手がかりは、今は亡き恋人クリオとの日々を綴った日記だけ。真実を知るというドクター・フィドーラスを探すべく、エリックは気む…

少女外道 /皆川博子

これは題名的にちょっと抵抗がありました(苦笑)ま、変な作品ではないですから気にしなくていいんですけれど。。。おっさんは困ってしまうのだ。 「蝶」ではガツンとやられてしまいましたがこの作品は主に語り部が子供の頃、日本が戦争に大きく関わっていた…

アクアポリスQ /津原泰水

水没したQ市の沖合いに浮かぶ人工の島、アクアポリスを舞台にしたSFです。コンピュータで完全管理された島と、「空虚」という出来事をきっかけに混沌に陥った日本を「統治府」が支配している。空虚によって「希薄者」となった人々が憑依されると、モンスタレ…

四畳半王国見聞録 ::森見登美彦

事前知識がなく、題名を見る限り「四畳半神話大系」の題名に絡めたエッセイ集とばかり思っていたが小説だったのね。ちょっと違うけれど。マキメ作品で言うところの「ホルモー六景」のような位置付けのようにも感じます。「四畳半七景」みたいな(笑) 「四畳…

こんな話を聞いた ::阿刀田高

久しぶりに読もうかなと思いながら入手したにもかかわらず、更に塩漬けにしていました。18の短編集です。各作品の出だしが全て「こんな話を聞いた」ではじまります。そして短いエピソードがあり、続けて本編に入るフォーマットで統一されている。エピソード…

草祭 /恒川光太郎

不思議な町、「美奥」を舞台にした連作短編5篇の物語です。先月読んだ「南の子供が夜いくところ」は南国を舞台にしていたがこれはどこか懐かしさを感じさせる日本的情緒溢れる作品でした。子供の頃に遊んだ野原や林、古い家屋や駄菓子屋などの記憶が読みなが…

1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター /五十嵐貴久

今か今かと思いつつ、なかなか文庫が出ないので図書館で借りてしまいました。題名はもちろんディープ・パープルの有名曲「スモーク・オン・ザ・ウォーター」がらみ。40歳代の主婦がひょんなことからロックバンドを組むことになって「スモーク・オン・ザ・ウ…

雷神の筒 ::山本兼一

「火天の城」が面白くて積んでいましたがようやく棚卸しです。織田信長を語る上で鉄砲を抜きにして語ることは難しいでしょう。織田軍が武田信玄との戦いで鉄砲の三段撃ちを行ったという話は有名ですが実際はその戦法で勝負をつけたわけではなく、最終的には…

図書館を利用するのだ

ここのところ図書館を利用する機会を増やしております。おかげで文庫待ちしていた作品が、少しだけ早く読めるようになりました。図書館をよく利用する方にとっては何を今更って内容で申し訳ないですが見逃してください。実は12月に北海道に住む母が癌の手術…

猫を抱いて象と泳ぐ /小川洋子

チェスがらみの作品という事は聞いてましたが、題名とどう繋がるのか疑問でした。わかってみると、いい題名だと思います。 全体を通してとても静かな物語です。屋上の象、バスの中で暮らすマスター、リトル・アリョーヒンの人形、全てが違う切り口で描かれて…

跳躍者の時空 ::フリッツ・ライバー

今年初の奇想コレクションです。10篇中半分が天才猫ガミッチシリーズからということで、表紙を含めて猫だらけの作品です。他の作品にも猫がちょっとだけでてきたりするので猫好きさんにはたまらないでしょう。作者は猫好きだけあって猫の仕草の描写が目に浮…

宇宙舟歌 /R.A.ラファティ

かのホメロス「オデュッセイア」の舞台を宇宙におきかえ、われらがロードストラム船長とその乗組員たちが繰り広げる大冒険を綴ったラファティ版英雄叙事詩。一行が向かうのは、快楽を貪る世界、巨人たちが毎日死ぬまで戦う世界、時間が異様に速く過ぎる世界…

第七官界彷徨 ::尾崎翠

津原泰水さんの「琉璃玉の耳輪」を読んで興味を持った尾崎翠さん。飛びぬけて面白いわけではないが、何とも不可思議な作家さんだ。 痩せたひどく縮れた赤毛の女、小野町子は小野一助、二助の妹であり佐田三五郎の従妹。ひとつ屋根に同居しているこの4人を中…

海賊の世界史(上下) ::フィリップ・ゴス

多島斗志之さんの「海賊モア船長の遍歴」を読んで自分の中で海賊が盛り上がっていたところタイムリーにも復刊されたため即入手&積んでおきました。年末から読み始め、この作品を最初の記事にする心積もりだったのですが、上下巻のため時間がかかりその間に…

琉璃玉の耳輪 /津原泰水

尾崎翠/原案 年末に読んだ「バレエ・メカニック」が微妙だったため、多少心配しましたが杞憂に終わりました。今年はじめての感想記事がこれでよかったと思います。 原案/尾崎翠となっているが、映画向けの脚本として書かれたものを津原泰水がアレンジして小…