吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

2009-01-01から1年間の記事一覧

潮風の下で --レイチェル・カーソン

古典的ベストセラーともなった、環境問題への警告の書『沈黙の春』の著者レイチェル・カーソンは『われらをめぐる海』など海を語る著者としても有名である。本書は、1941年に刊行された彼女の処女作であり、彼女のよってたつ原点ともいうべき作品である。海…

雷の季節の終わりに --恒川光太郎

いいですね、この世界観。地図に載っていない「穏(おん)」というエリアは外の世界からは見ることができない。穏には春夏秋冬以外に神の季節である「雷季」という二週間ほどの季節が冬と春の間にある。雷季になると穏に住む人々は家に閉じこもり、外は風と…

有頂天家族 --森見登美彦

宵山万華鏡の前に読みたかったのですが、ようやく古書店で見つけることができました。 そうか、京都は人間と狸と天狗が三つ巴で生きている場所だったのか。今までの森見作品のいろんな謎は、この作品で解決した気がする。他の作品で不思議な能力?を発揮して…

桜庭一樹読書日記―少年になり、本を買うのだ。 --桜庭一樹

「書店はタイムマシーン」よりも前のWeb日記の文庫化である。やはりこの人の読書量は尋常ではない。何かにつけては本屋に寄り、買い、読み、風呂でも読み、眠るまで読み、読書家の鏡である。 そして、類は友を呼ぶのだ。相変わらず彼女の周辺に蠢く編集者た…

連休の最後の朝に

連休最後の日の朝、おもむろにPCを起動するも、いっこうに立ち上がらない。!!よく見るとパワーボタンはオレンジ色の点滅中。再度ボタンを押しても点滅は消えず、焦る。ボタンの長押しでとりあえずOFF状態にするも、再度押すとオレンジの点滅。嫌な汗が。つ…

始祖鳥記 --飯嶋和一

空前の災厄続きに、人心が絶望に打ちひしがれた暗黒の江戸天明期、大空を飛ぶことに己のすべてを賭けた男がいた。その“鳥人”幸吉の生きざまに人々は奮い立ち、腐りきった公儀の悪政に敢然と立ち向かった―。ただ自らを貫くために空を飛び、飛ぶために生きた稀…

手書きで思ったこと

仕事上、打ち合わせ以外は常にPCと向き合うため、手書き作業がめっきり少なくなった。ふと思いついて、客先に提出する資料の素案を手書きで作る事にした。学生の頃は書いて覚えるタイプだったので(結局覚えてない事だらけだけど)、ペンだこが痛くて文字を…

火天の城 --山本兼一

信長の夢は、天下一の棟梁父子に託された。天に聳える五重の天主を建てよ!巨大な安土城築城を命じられた岡部又右衛門と以俊は、無理難題を形にするため、前代未聞の大プロジェクトに挑む。長信の野望と大工の意地、情熱、創意工夫―すべてのみこんで完成した…

古本綺譚 --出久根達郎

古本の世界は果しなく深く、魅惑的な混沌がある。この世に二つとない幻の本を手に入れたいと夢見る愛書家と古本屋。古本世界に住む、本を愛し本に憑かれた風変りな人びとの、古本をめぐる悲喜劇を、古本世界の一住人である古書店主が軽妙に描く、古本物語。…

不祥事 --池井戸潤

事務処理に問題を抱える支店を訪れて指導し解決に導く、臨店指導。若くしてその大役に抜擢された花咲舞は、銀行内部の不正を見て見ぬふりなどできないタイプ。独特の慣習と歪んだ企業倫理に支配された銀行を「浄化」すべく、舞は今日も悪辣な支店長を、自己…

僕は運動おんち --枡野浩一

「BOOK」データベースより引用運動も勉強もできず、落ち込みがちな高校生の勝。運動音痴から「うんちゃん」とあだ名され、同じ高校に美しい妹が入学してからは変に目立って、ますます死にたい毎日。そんな中、詩を書く柔道部の男子と親しくなり、彼の幼なじ…

あるキング --伊坂幸太郎

弱小地方球団・仙醍キングスの熱烈なファンである両親のもとに生まれた山田王求。“王が求め、王に求められる”ようにと名づけられた一人の少年は、仙醍キングスに入団してチームを優勝に導く運命を背負い、野球選手になるべく育てられる。期待以上に王求の才…

サクリファイス --近藤史恵

今更ながらようやく読むことが出来ました。雑誌「Story Seller1-2」の「プロトンの中の孤独」、「レミング」とサクリファイスの外伝から入ったので時系列に沿って読んだことになります。おかげで自転車のロードレースをよく知っているような錯覚を覚え、すん…

猫のゆりかご --カート・ヴォネガット・ジュニア

読みはじめて、ん?と思い、読み進めるにつれ、懐かしさがこみあげてきました。久しぶりじゃね~か、と旧友に出会った感じとでも言うのでしょうか。と、「西瓜糖の日々」(リチャード・ブローティガン)の記事と同じ書き出しにしてみました。この作品も高橋…

クリムゾンの迷宮 --貴志祐介

本書裏表紙より引用藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲーム…

想像力の地球旅行 --荒俣宏

想像力の地球旅行―荒俣宏の博物学入門 「BOOK」データベースより引用博物学は観察して目玉を楽しませる行為であり、記述する楽しみである。地球の上を実際に歩き、生きているモノを自分の目でみて確かめる。そこから、擬態や植物地理学、さらには進化論まで…

宵山万華鏡 --森見登美彦

「BOOK」データベースより引用祇園祭宵山の京都。熱気あふれる祭りの夜には、現実と妖しの世界が入り乱れ、気をつけないと「大切な人」を失ってしまう―。幼い姉妹、ヘタレ大学生達、怪しげな骨董屋、失踪事件に巻き込まれた過去をもつ叔父と姪。様々な事情と…

Story Seller 2

昨年読んだ雑誌「Story Seller」の第2弾です。伊坂さん、近藤さん、佐藤さんが第1弾とリンクがあります。ノンフィクションの沢木さんがどのような作品を持ってきたのか、興味ありつつ不安もありつつ読みました。◆マリーとメアリー --沢木耕太郎このメンバー…

シャムロック・ティー --キアラン・カーソン

「琥珀捕り」に続いて読みました。読み終わってしまいました。でも読んで良かった。 以下本文より引用 「彼はまず、画板を百の四角に区分けする。それぞれの四角に番号をつけて小さな手控え帖に書き付ける。しかるのちに、これらの四角をさまざまな色で塗り…

百億の昼と千億の夜 --光瀬龍

HAYAKAWA ONLINEより引用破滅の兆しはすでに現われていた――アトランティス崩壊を目撃したプラトン、最後の審判の日を予見したキリスト、天界の絶対者に接して破局の近いことを知った釈迦、だがこれら賢聖達ですら宇宙を覆って迫る運命の全貌は知る由もなかっ…

フェルメール全点踏破の旅 --朽木ゆり子

キアラン・カーソンの「琥珀捕り」を読んで俄然フェルメールの絵画に関して知りたくなりました。その流れで「私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件」(未読)を買ったわけですが、フェルメールの絵が具体的に判れば文章の理解度も上がるだろう、という理由…

YMO

ブログを始める前に読んでいたYMO(Yellow Magic Orchestra)がらみの本を2冊おさらいました。当時、YMOが登場した時の衝撃は凄かった。テレビでYMOの映像を流すという情報が流れるのをどれだけ心待ちしただろう。音楽の斬新さだけではなく赤い人民服を着て…

マイナス・ゼロ --広瀬正

「BOOK」データベースより引用1945年の東京。空襲のさなか、浜田少年は息絶えようとする隣人の「先生」から奇妙な頼まれごとをする。18年後の今日、ここに来てほしい、というのだ。そして約束の日、約束の場所で彼が目にした不思議な機械―それは「先生」が密…

ユダヤ警官同盟(上下) --マイケル・シェイボン

「BOOK」データベースより引用安ホテルでヤク中が殺された。傍らにチェス盤。後頭部に一発。プロか。時は2007年、アラスカ・シトカ特別区。流浪のユダヤ人が築いたその地は2ヶ月後に米国への返還を控え、警察もやる気がない。だが、酒浸りの日々を送る殺人課…

モルグ街の殺人・黄金虫 --エドガー・アラン・ポー

モルグ街の殺人・黄金虫―ポー短編集〈2〉ミステリ編 「BOOK」データベースより引用史上初の推理小説「モルグ街の殺人」。パリで起きた残虐な母娘殺人事件を、人並みはずれた分析力で見事に解決したオーギュスト・デュパン。彼こそが後の数々の“名探偵”たちの…

赤×ピンク --桜庭一樹

「BOOK」データベースより引用東京・六本木、廃校になった小学校で夜毎繰り広げられる非合法ガールファイト、集う奇妙な客たち、どこか壊れた、でも真摯で純な女の子たち。体の痛みを心の筋肉に変えて、どこよりも高く跳び、誰よりも速い拳を、何もかも粉砕…

【新釈】走れメロス 他四篇 --森見登美彦

もっと早く読む予定だったのですが原典となる作品をいくつか読んでいなかったため、そちらを先に読んでました。文庫ではないのですが・・・・先に進みたくて(笑) 「山月記」 (中島敦)文章を書くためにストイックな生活を送る斉藤秀太郎は森見ワールドの…

玩具修理者 --小林泰三

短編の「玩具修理者」と中編の「酔歩する男」の二編です。第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。 「玩具修理者」 ある夏の日。喫茶店の中での二人の男女の会話。女は七つか八つの頃のできごとを男に語っている。「ようぐそうとほうとふ」という名前を持ち…

怪魚ウモッカ格闘記 --高野秀行

「BOOK」データベースより引用探し物中毒の著者は、ある日、インドの謎の怪魚ウモッカの情報を入手、「捕獲すれば世紀の大発見!」と勇み立つ。ルール無し、時間制限無しの戦いが始まった。次々と立ちふさがる困難を砕き、著者は進む。地元漁民の協力を仰ぐた…

ルート350 --古川日出男

比喩表現を使わせてもらえば世界を箱庭に閉じ込めてしまったり、細胞を宇宙にしてしまったり、縦横無尽にスケールを変化させながら発する言葉とビートが機関銃のように乱射されるのは気持ちが良い反面、「的」をはずしやすい気持ち悪さをも伴う。短編集なの…